【西陽のあたる部屋】でひとり村下孝蔵さんを聴いて暮らす。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞
今回は村下さんが円熟味を増していく時期の一曲をご紹介します。
そのタイトルは「西陽のあたる部屋」です!
80年代の末に発表されたアルバム『恋文』に収録されており、「交差点」などすでに解説した名曲とともに生まれた楽曲ですね。
- 参考:村下孝蔵さん楽曲解説特集🎸
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当サイトは非公式のファンサイトであり、ファンの皆様がご自身なりに楽しめる場を提供することを目的としています。同時に、村下孝蔵さんの全楽曲、とりわけその歌詞の意味や世界観を解説することを主たる目標に掲げています。
(⇒村下孝蔵さん楽曲解説・歌詞解題についての詳しい「考え方」はこちら)
ご興味のある方は、以下の記事もお楽しみいただけるはずと自負しておりますので、お時間のあるときにどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
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村下孝蔵:隠れた名曲【13曲】ランキングカテゴリー(解説楽曲例:ロマンスカー、だめですか、いいなずけ、北斗七星、夢からさめたらなど)
楽曲から素直に感じる印象を大切にしつつ、一編の物語となるよう管理人なりに全力で取り組みましたので、皆様が村下さんを別な視点から楽しむ参考になることだけは請け合いです☆
下部に歌詞全文を用意しました、適宜ご利用くださいね。
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(遷移せずこの場で再生できます▶)
西陽のあたる部屋で
二人愛しあっていた
解題
収録アルバムの色合いに合わせたのかとも思われる、どこか東洋風のイントロが珍しく感じられる本楽曲。
基本的な場面設定としては、男性と女性が一緒に暮らしていた日々の様子を主に男性の視点から描いているものでしょう。
しかし、よく聴いていくと状況がつかみづらく難解な側面も併せ持っていますね。
男性と女性が同じアパートで暮らすようになってから、しばらく時間が経っていました。
季節は夏の盛りにさしかかっています。
なんとか二人で探し当てた、朝陽でなく「西陽」ばかり「のあたる」家賃の安い「部屋で」、お互いさえいれば他に何もいらないと言わんばかりに「二人」はピッタリとくっついて「愛しあっていた」のです。
夏はいつも汗をかいて
眠れなかったよね
うだるような西陽のせいで夜まで部屋は蒸し暑いのですが、それでも二人は常に一緒だったから、特に「夏はいつも汗をかいて」ずっとお互いの手や肌の感触を感じて「眠れなかったよね」。
眠ろうとして少し黙ってみても、隣に寝ている相手のことが気になって、何か話しかけてしまう。
そうすれば相手も応えるから、さっき食べた夕食のことなど他愛もない話をして、また眠ろうと試みる。
そんなことをくり返す夜には、
おまえは好きな歌を
鼻歌でうたったよね
夜はいつか 闇に溶けて
朝日におこされていたよね
女性はしばしば「好きな歌を」、男性に聴かせようとするわけでもなく「鼻歌でうたった」ものでした。
男性も寝ようとしているのに鼻歌をうたう女性の声を聞くでもなく聞いて、どこか落ち着くようなせわしないような感覚になります。
女性の鼻歌がいつの間にか暗い部屋に消えていくのと同じように、更けていく「夜はいつか」向かうところのない「闇に溶けて」、二人は直接に窓から差し込むことのない「朝日におこされていたよね」。
この暮らしが別に苦ではなく、二人で生活を作っていくのだという感じが伝わってくるな。
正直さだけ ただ守ってきたね
貧しさにまけそうな 暮らしのなか
小さな部屋でつましく生きていた二人にとって、お互いに対する「正直さだけ」が何より大切なもので「ただ」ひたすらに「守ってきた」ものです。
もしかしたら男性(あるいは女性)は何か夢を追いかけているのかもしれません。
そのためにお金を稼ぐことも難しく「貧しさに負けそうな」状況になりながらも、その部分も含めて正直に話してここまでやってきました。
無理やり楽しさなどを探しに出かけなくとも、ただ二人が素直に自分の気持ちを打ち明けあって、一緒に笑いあえればこれ以上ない幸福だったのでしょう。
*おまえ抱いてた日々の終わりに
始まった愛に
郵便箱に届いた
秋は薄い便箋
そうやって昼も夜も男性が女性のことを「抱いてた」夏の「日々の終わりに」、二人とも予期していなかった出来事が発生します。
このころ、男性は時々外を出歩くようになっていました。
女性との日々に不満があるわけではないけれども、例えば自分の追いかけている夢との関係などで、自身のふがいなさのようなものを感じていたのでしょうか。
さびしい背中で街を行く男性が、同じようにつらさを抱えた別の女性と出会うことは避けられなかったのかもしれません。
ともに人生を歩むのだ、夢をつかむのだ、などという将来を考える必要のない関係で「始まった愛に」男性は引き込まれていきました。
一緒に暮らす女性のことも深く愛しているから、ある日錆びた「郵便箱に届いた」涼風をともなった「秋」の気配のような「薄い便箋」を、誰からのものとも知らない振りをして男性は机にしまったものでした。
上を見ればきりない
下へは落ちてゆける
坂の途中 疲れきって
足が動かないよ
どんな相手であっても他者との関係を火遊びなどと呼ぶことのできない男性は、日に日に悩みを抱えるようになっていきます。
いっぽうで、ともに生きることを誓った女性との生活は金銭面をはじめ多くの面でつらいもので、この世界で自分だけが苦しんでいるような気持ちもします。
周りと比べ「上を見れば」どこまでも「きりない」けれど、ここであきらめてしまえば「下へは」簡単にすぐ「落ちてゆける」。
男性の心のどこかで、もうここまでにしたいという気持ちがあったのも確かでしょう。
こんな風に思えてくると、女性がいつも鼻歌をうたい、自分に笑顔を向けてくれることがけなげで憐れにも感じてきます。
二人で絶対に乗り越えると決めた「坂の途中」で、男性は「疲れきって」次の一歩を進む「足が動かないよ」……と嘆いています。
人にたよれば終わる
自分にたよれもしない
街のひかり ぼんやりみえ
夜が沈みきっているようさ
おそらく新たに出会った女性も似たような境遇なのでしょうか。
例えば金銭的に誰かに頼るわけにもいかず、かといってそのつらい心をこの出会ったばかりの相手「にたよれば」これまで培ってきたすべてが「終わる」。
ましてやこんな状況を生み出してしまった「自分にたよれもしない」ことも男性はよく理解しています。
珍しく夜の酒場へ出て酒を浴びながらたたずむと、すぐそばにあるはずなのに「街のひかり」は遠く「ぼんやりみえ」ます。
それらが自分の人生とは何の関係もないと語り掛ける暗い「夜が」、全部を呑み込んで「沈みきっているよう」でした。
もはや自分の中心的な生活(これまでの女性との)さえどうしようもない。
それなのに、もっと行き着く先がないこの関係(新しい相手との)に身をゆだねていることが奇妙な安堵を生む……なるほどじゃよ。
日毎たまった 新聞のように
積み上げられてく 昨日 捨てられずに
男性は表向きこれまで通りに努力を重ね、女性との毎日も変わらず進んでいます。
けれども、淡々と届いて「日毎たまった 新聞のように」数々の出来事や言葉や気持ちとともに「積み上げられてく 昨日」という日々が、振りほどこうにも「捨てられずに」男性にのしかかり続けます。
毎晩隣で眠る女性は、そんな男性の変化に気づいているのかそうでないのか、
*くりかえし
あるいはあえて今までと同じように過ごすことで二人の関係を確かめようとしているのか、鼻歌を「*くりかえし」うたって夜明けを待って暮らしています。
男性もまた女性のことを変わらず愛し、抱きしめて暮らしていましたが、
*くりかえし
突如として新しく出会った女性から届いた手紙には、もう関係を断ち切ろうという言葉が記されていました。
そこには連絡先なども書かれておらず、この女性は自分から身を引いた形となったのでしょう。
薄紙一枚の便箋はまるで半分だけ乾いた落ち葉のようで、「*くりかえし」さびしさと切なさを呼ぶ秋の気配が以前よりもはっきりと刻まれています。
人間はどんな状況にも直面しうる、そしてそれぞれが自分自身の道を探して生きていくのだ。
そうやって無数のあり方で私たちはこの世界を歩んでいる、という基本的な事実に目を向けさせてくれる名曲ですね。
聴きどころ
サビに向かうメロディ運びの盛り上がりがとてもGOODですね!
村下さんの楽曲はどこがサビでどこが地の文(?)なのかはっきりしないものも多いですが、本楽曲はがっちりとサビを作ってくれています。
内容的な意味も含めて、ラストの余韻が最高です。
この後登場人物たちはどうなったのだろう……という感覚に導かれるようなエンディングのギターが一番泣ける気がします笑
管理人の感想(あとがき)
管理人がこの曲に触れたのはいつごろだったでしょうか。
たぶんアルバム『恋文』や『野菊よ 僕は…』辺りは比較的マイナーなアルバムですから、手に取ったのも多少遅かったかもしれません。
しかしそういうアルバムにこそ珠玉の作品が多かったりするものですね!
本楽曲も聴き込めば聴き込むほど味が出てきて大変でした笑
まとめ
今回は村下孝蔵さんの「西陽のあたる部屋」を解説してまいりました。ぜひ皆様もご自分なりの解釈で楽しんでみてくださいね☆
他の楽曲解説もご覧になりたい方は、歌詞全文下部↓のリンクへどうぞ。(直近の解説楽曲は「二年前なら」でした)
西陽のあたる部屋【歌詞全文】
西陽のあたる部屋で 二人愛しあっていた 夏はいつも汗をかいて 眠れなかったよね おまえは好きな歌を 鼻歌でうたったよね 夜はいつか 闇に溶けて 朝日におこされていたよね 正直さだけ ただ守ってきたね 貧しさにまけそうな 暮らしのなか *おまえ抱いてた日々の終わりに 始まった愛に 郵便箱に届いた 秋は薄い便箋 上を見ればきりない 下へは落ちてゆける 坂の途中 疲れきって 足が動かないよ 人にたよれば終わる 自分にたよれもしない 街のひかり ぼんやりみえ 夜が沈みきっているようさ 日毎たまった 新聞のように 積み上げられてく 昨日 捨てられずに *くりかえし *くりかえし
(作詞・作曲:村下孝蔵 編曲:水谷公生ー1988年10月21日)
関連記事ーその他楽曲解説・小ネタなど
ここまでお読みくださってありがとうございました!
村下孝蔵さんには他にも素敵な楽曲がたくさんあります。
当サイトでこれまで取り上げた楽曲を改めて掲げておきますので、お時間のあるときにぜひ遊びにいらしてくださいね。
また、村下さんに関するちょっとしたネタやカバーしている方の情報なども順次まとめています。
ご興味があればTOPページからご覧くださいませ
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