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村下孝蔵さんの【水無月十三夜】はこの上なく静かで熱い。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞

村下孝蔵 水無月十三夜 アイキャッチ
おうじゃ(管理人)
(記事内にプロモーションを含む場合があります)


今回は村下孝蔵さんをご存じの方のうちでも、おそらくコアめなファンのみが知っているであろう「水無月十三夜」を取り上げます。

1989年11月発表の『野菊よ 僕は…』というアルバムに収録されている本楽曲は、村下さんのメジャーキャリア(1989年~1999年)の中でちょうど真ん中に当たる時期の作品ですね。

他にも村下さんの変遷を感じさせる楽曲はたくさんありますけれど、この曲はその意味合いがはっきりとしているかもしれません。

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参考:村下孝蔵さん楽曲解説特集🎸

当サイトは非公式のファンサイトであり、ファンの皆様がご自身なりに楽しめる場を提供することを目的としています。同時に、村下孝蔵さんの全楽曲、とりわけその歌詞の意味や世界観を解説することを主たる目標に掲げています。

⇒村下孝蔵さん楽曲解説・歌詞解題についての詳しい「考え方」はこちら

ご興味のある方は、以下の記事もお楽しみいただけるはずと自負しておりますので、お時間のあるときにどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

↓↓↓

\ 計13曲!隠れた名曲をランキング!/

村下孝蔵さんの【水無月十三夜】はこの上なく静かで熱い。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞
村下孝蔵さんの【水無月十三夜】はこの上なく静かで熱い。歌詞の意味や世界観を解説&鑑賞

(解説楽曲例:ロマンスカー、だめですか、いいなずけ、北斗七星、夢からさめたらなど)

⇒「踊り子」など代表曲はこちら

今回の解説・解題も管理人なりに全力で取り組みましたので、皆様が村下さんの楽曲を別な視点から楽しむ参考になることだけは請け合いです☆

初めて本楽曲に触れる方はちょっと暗すぎて驚くかも??

下部に歌詞全文を用意しましたので、適宜ご利用くださいね。

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🎵 当記事の著者について

当サイト管理人

新おうじゃ

名前 / Name  
おうじゃ 

職業 / Occupation
生来詩人、お米賞味マイスター、歌詞解説・鑑賞家、福話術者(家庭教師も兼業)

実績 / Achievements
生まれたときから詩的な人生を送っています。村下孝蔵さんに出逢ってから、その楽曲を肌身離さず心に持ち歩いては味わってきました。
姉妹サイトではシティポップの楽曲解説や、自身の生活の中で頂いたお米の銘柄の特徴をレビューしつつ【福話術】と題したあらゆる人の心に寄り添う記事を執筆、分野を開拓しています。

(姉妹サイト「おうじゃの福眼」プロフィールページへ遷移します)

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楽天ミュージック
『野菊よ 僕は…』所収

“水無月十三夜”

(遷移せずこの場で再生できます▶)

風に向かい 高く伸びる凧糸
ふと手を放れ そのわけは知らない

解題

冒頭からサスペンス劇場のクライマックス(というかエンディング?)のような印象を与えるイントロです。

おそらく村下さんの楽曲の中で最も暗い質の一曲といってよいでしょう。

基本的な場面設定もはっきりとしていて、主人公である男性(歌詞に現れる「息子」でしょう)が病床に付している父親の様子を見つめているというものです。

ダルマ師匠
ダルマ師匠

今回はかなり重めなので注意じゃぞ。

樹々は青く茂り、子どもたちが薄着で遊ぶ夏の盛りを感じさせる折、男性はお見舞いに訪れた病室で窓の外を眺めています。

その心はかつて父と過ごした日へ向かっているかもしれませんし、自分自身で何かを夢想しているかもしれません。

男性の胸に浮かぶ情景の中では、強い「風に向かい」引きずられるように「高く伸びる凧糸」を手に繰っている自分の姿があります。

しっかりと握っていたはずなのに、凧糸は「ふと手を放れ」て空へ流れていってしまいました。

父親をはじめ、母親も他の家族も男性自身もみな幸福を願い、自分のすべきことを積み重ねていたのにも関わらず、どうして望んでいたそのささやかな光明が消えていくのか、誰も「そのわけは知らない」のです。

はかない夢を見て 届いたのだろうか
父親は 無念そうに 眠る

ベッドに横たわり浅く細い息をする父親を見つめ、男性は思います。

いまや生命が消え去ろうとする段階に至っているけれど、これまで「はかない夢を見て」家族を顧みることもかなわなかったその求める場所へ、この人は「届いたのだろうか」……。

男性や他の家族の気持ちを知ってか知らずか、「父親は」しわの深い顔で「無念そうに 眠る」だけです。

白い紙のサクラがガラス窓の
ヒビをかくし 華やかに咲いていたよ
病室の熱さ 硬く冷えた手足
あはれなる 水無月十三夜

部屋の外からはぬるい風が吹きつけ、いつ貼られたのか「白い紙のサクラが」カタカタと揺れる「ガラス窓の」薄い「ヒビをかくし」てこの場所に不似合いなほど「華やかに咲いていたよ」。

病人の体温調節のため空調の温度は高めに設定され、狭さもあってむっとする「病室の熱さ」や夏の空気と父親の「硬く冷えた手足」は対照的です。

男性や他の家族が集まって父親を見守ることもあれば、入れ替わりで外の空気を吸いに出ることもあります。

それに気づいているのかもはや何も分からず眠っているのか、父親がそこで横たわる様子は、病院の外で盛りを謳歌している生命を、満ちてゆく月が照らす「あはれなる 水無月十三夜」のことでした。

渦の中で 消えてゆく砂糖粒
かきまわされて 底から舞いあがる
甘くやさしい声 低くとがめた声
父親は くやしそうに 騒ぎ

十三夜の月がじょじょに夜空を昇っていく間、男性たち家族は父親の病室で何もすることがありません。

欲しくもないコーヒーの黒い「渦の中で」、決まりごとのように振り入れて「消えてゆく砂糖粒」を見つめてどのくらい時間が経ったでしょうか。

細く安っぽい使い捨てマドラーでコーヒーをつついたときと同様に、いまや自然の摂理に呑み込まれてゆく父親の生命は自他の数々の思いに「かきまわされて」、最後の抵抗をするかのように「底から舞いあがる」のです。

自分でもそのことが分かっているから、ふと目を覚ましたときには家族や自分をほめるように「甘くやさしい声」を出したり、反対にすべてを呪うように「低くとがめた声」を上げたりします。

そのどれもがどこにも届かず響かないことも理解しているので、「父親は」動かない身体で「くやしそうに 騒ぎ」横たわっています。

古い型の 革の手帳あけても
息子や孫への 言葉はありません
時を切りとり 一途に生きた汗と
頬つたう 一条の父の涙 悲し

半ば夢の中で騒いでいる父親を横目に、男性が父の愛用していた「古い型の」年季の入った「革の手帳」を「あけても」、そこに「息子や孫への 言葉はありません」。

自分の仕事のことや、成し遂げたいと考えていたらしい希望のこと、独り抱えていた苦しさ、悩みなどが、罫線や前に書いた文字の合間を縫って収まり切らないほど記されています。

生を享けて与えられた「時を切りとり」幸せを求めて「一途に生きた汗」がこの手帳にしみこんでいることもよく分かります。

騒ぐのをやめたと思えば、音もなく乾いた「頬つたう」薄い「一条の父の涙」に、男性は憐憫とも後悔ともちがうやり場のない「悲し」さを感じました。

ここでは父親の様子が中心におかれていますが、男性が自分自身も同じ道をたどるのかなどと考えているかもしれないという示唆もありますね。

遠くうなる 風にゆれる松林
静かならず 水無月は十三夜
声を出して 最後にいつ笑ったの?
幼い日 背に抱かれ 帰った日よ

ここに集う全員が今夜が山場だと分かっています。

日付が変わりどの病室も静まり返って、「遠くうなる」どこから来てどこへゆくのか知れない「風にゆれる松林」の音が大きく聞こえます。

誰も口を開く人はおらず、父親が細い息をする音だけがする暗く沈んだ病室は、逆説的に最も「静かならず」の様相で、消えゆく生命とそれにまつわる想いが錯綜する「水無月は十三夜」の醒めた月が照らす極限の場です。

もう表情が分からない父親の顔を見つめ、男性はつぶやきました。「声を出して 最後にいつ笑ったの?」

たくさん話をして、いろいろに笑いあっていた「幼い日」に、広く強い父親の「背に抱かれ」幸せに「帰った日よ」……。

流れ出た 一条の人生

月明かりが風まで照らそうかという深夜に、男性たちに見守られ父親の身体から「流れ出た」涙のような「一条の人生」は空へ高く昇っていったのでしょうか。

生きものが避けることのできないテーマを素材に、積み重なった時や想いなど人間特有の事情も含めて最大限に美しく悲しく描いた味わいのある一曲です。

聴きどころ

楽曲全編を通してとにかく暗い作りになっていますが、エンディングで長く残るピアノとシンセサイザー(でしょうか?)は本当に暗い世界観を表現していて見事ですね。

ただ暗いというだけではなく、絶対的にそうであるところの「何か」を上手に指し示しているようにも感じます。

また、村下さんはレコーディングの際は弾き語りでなく合掌スタイルで歌われていたと聞きますけれど、その様子がイメージしやすい楽曲にも思えます。

管理人の感想(あとがき)

管理人が本楽曲に触れたのは、村下さんを知ってしばらくしてからだったと思います。

村下さんの曲の暗さや悲しさをすごく好んでいた時期だったので、この曲もかなり好きでした。

音の運びも結構分かりやすいというか歌いやすいので、カラオケではあまり選択しませんでしたが、自宅ではよく口ずさんでいました。

おうじゃ
おうじゃ

この曲を高らかに歌いながら掃除機をかけたりして……。ちょっと不思議かも?笑

まとめ

今回は村下孝蔵さんの沈降曲「水無月十三夜」を解説してまいりました。ぜひ皆様もご自分なりの解釈で楽しんでみてくださいね☆

他の楽曲解説もご覧になりたい方は、歌詞全文下部↓のリンクへどうぞ。(直近の解説楽曲は「素直」でした)

水無月十三夜【歌詞全文】

風に向かい 高く伸びる凧糸
ふと手を放れ そのわけは知らない
はかない夢を見て 届いたのだろうか
父親は 無念そうに 眠る

白い紙のサクラがガラス窓の
ヒビをかくし 華やかに咲いていたよ
病室の熱さ 硬く冷えた手足
あはれなる 水無月十三夜

渦の中で 消えてゆく砂糖粒
かきまわされて 底から舞いあがる
甘くやさしい声 低くとがめた声
父親は くやしそうに 騒ぎ

古い型の 革の手帳あけても
息子や孫への 言葉はありません
時を切りとり 一途に生きた汗と
頬つたう 一条の父の涙 悲し

遠くうなる 風にゆれる松林
静かならず 水無月は十三夜
声を出して 最後にいつ笑ったの?
幼い日 背に抱かれ 帰った日よ
流れ出た 一条の人生

(作詞・作曲:村下孝蔵 編曲:水谷公生ー1989年11月1日)

この歌詞全文の引用は「水無月十三夜」の魅力を解説するため、および閲覧者の方々の便宜のための必要によってなされたものです。

関連記事ーその他楽曲解説・小ネタなど

ここまでお読みくださってありがとうございました!

村下孝蔵さんには他にも素敵な楽曲がたくさんあります。

当サイトでこれまで取り上げた楽曲を改めて掲げておきますので、お時間のあるときにぜひ遊びにいらしてくださいね。

また、村下さんに関するちょっとしたネタやカバーしている方の情報なども順次まとめています。

ご興味があればTOPページからご覧くださいませ

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